尾﨑(和賀)萌子のホームページ

言語学な育児日記#22 人生回顧録(博論編―PART2)

前回の続きです。

追い詰められた末に調べてみたところ、なんと湯河原に「原稿執筆プラン」なる、あまりにもこちらの需要にぴったりすぎる宿があるではないか。

ということで、最後の追い込みをかけるべく、我々はその宿へ向かった。
そして、ろくに風呂にも入らず、毎日同じジャージに身を包み、朝から晩まで4日間、ひたすら論文を書き続けた。

↑決戦開始直前

ちなみにこの宿、執筆しているその場に三食を提供してくれるので、トイレ以外、一歩も動かずに博論に専念できる。
しかも、一日のはじめに「今日はどれくらい執筆するか」を宣言し、夜ご飯までに達成できなかった場合、その夜はアルコールが飲めない、というシステムまである。

「まあ、そうはいっても、なんだかんだアルコールメニューも出してくれるでしょ〜」
と思っていたら、達成できなかった日は本当にソフトドリンクしか提供されなかった。

俄然、やる気が出る。

なお余談だが、同じ宿には大学生っぽいメンズ数人のグループも泊まっていた。初日はちらちらこちらを見ていたのに、最終日には一瞥すらされなくなっていた。ろくに風呂にも入っていなさそうな女二人を不潔に思ったのか、それとも近寄ってはいけないタイプの殺気を察したのかはわからない。ただ、女として何か大事なものを失っていった気はする。

しかし、こちらにはそんなことを気にしている余裕などなかった。女子力と引き換えに、我々は着実に文字数を積み上げていったのである。


↑端っこで丸まってるのが私。映えるのは空間のみである。

こうして井上先生をはじめとした数多の先生方のサポート、ゼミ生のサポート、旅館の方々のサポート、家族のサポート、戦輩のサポートを受けながら、なんとか3月27日、締め切りまで1週間を切った状態で書き上げることができたのである。

なお、この頃には、パソコンを開くと咳が止まらなくなり、パソコンを閉じると咳がぴたりと止まる、という謎の症状に悩まされていた。
心身ともにここまで疲弊したのは、人生で初めてだった。

そして、書き上げたあとの開放感は格別…かというと、そうでもない。
待っているのは、原稿校正(30万円)と製本(3万円)、さらに審査である。

書き上がりホヤホヤの博論を携えて山奥から無事に下山した私と戦輩は、一旦放心し、釣れないことで有名な堤防で魚釣りをし、カフェでぼーっとし、そして記念の指輪を作った。

カップルだらけの熱海の工房で、黙々と指輪を作ったあと、

店員さん「刻印はどうしますか? 記念日やお互いの名前を入れる方が多いです♡」
私「そうですね……PHINALLY DONEでお願いします」(Ph.D.とfinallyをかけて)
店員さん「……え?」

というやり取りをさせてしまった店員さんには、実に申し訳ない。

 

かくして、私の博論執筆はひと段落した。
言語学の理論に爪痕を残せるような大層なものが書けた自信はない。けれど、体力的にも、精神的にも、知識的にも、その時の自分が持っているものをすべて使い切って書き上げたことだけは確かである。

これから博論を書く予定の方々には、最大限のエールを送りたい。
そして「もう書けない!」と思ったら、ぜひご連絡いただきたい。その辛さを全て受け止めた上で、一旦放心するのにおすすめのスポットをご紹介しよう。

〜完〜