尾﨑(和賀)萌子のホームページ

言語学な育児日記#20 人生回顧録(博士進学編)

前回の続き。

「他学部卒業でまともに修了した一人目」になれたのかどうかはわからないが(詳しくは#18)、とりあえず無事に修士号は取得できた。
となれば、中高時代からの夢だった教職に就くべく、いよいよ就活を…するはずだった。

ところが、ここで予想外のことが起きた。
不真面目の代名詞のようだった私に、まさかの天変地異が起こり、研究が楽しくなってしまったのである。

時は少し(だいぶ)遡る。
私は4歳でアメリカに渡り、現地校に通っていたのだが、割と本気で自分はアメリカ人だと思っていた。だから11歳で帰国し、日本の小学校に編入したときは、ありとあらゆるものがカルチャーショックだった。

たとえば、国語の「この場面での登場人物の感情を40字以内で書きなさい」という問題。
これがなんとも不思議だった。相手の感情、それも本の中に出てくる架空の人物の感情なんて、わかるはずがない。しかもそれを40字以内にまとめろとはどういうことなのか。そもそも「40字以内」という、絶妙に中途半端な制約は何なのだ。

他にも些細なカルチャーショックはたくさんあった。
私が日本の小学校に編入したのは6年生のときだったのだが、当時、クラスの女子の間では「プロフィール帳」なるものが流行っていた。A5サイズほどのバインダーにかわいいプロフィール用紙がたくさん綴じられていて、それをクラスメイトに渡して記入してもらうのである。

ところが、このプロフィール帳の記入にも大いに困った。

「わたしの名前は__________で、星座は________座!
性格は__________かな?
しゅみは________で、特技は__________だよ!
みんなには___________に似てるって言われるよ!!
チャームポイントは_________だよ♡」

だいたいそんな感じの内容なのだが、そもそもアメリカ育ちなので星座がわからない。
まあ、それは調べればよいとして、ほかの項目は一体何を書けばよいのだろうか。特技= special skillとは一体何なのか。
自分が今まで知らなかっただけで、実はみんな手のひらからファイヤーとか、なんか特別なスキルを持ち合わせているのだろうか。

特に「チャームポイント」が何を指すのか、さっぱりわからなかった。
「わからない」と書くのも違う気がしたので、色々と考えた結果、

チャーム (charm)=ブレスレットなどのアクセサリー
ポイント (point)=つける箇所
という意味だと解釈し、アクセサリーをつけたい体の部位のことだろう、と推測した。

というわけで、もらった用紙のチャームポイント欄には「ぜんぶ」と書いた。

その結果、一部の女子から反感を買った(そりゃそうである)。

その後、チャームポイントの本当の意味は心優しい同級生から教えてもらったのだが、それでも何を書けば良いのか、いまいちわからない。
どうやら、目とか口とか、そういう本質的すぎるチャームポイントを書いてはいけないらしい。
「左手の小指」とか「ほくろ」とか、そういう辺縁的なサムシングを書くのが正解だったようだ。
日本語は難しい。

話を戻そう。
言語学は、こうした私の長年のモヤモヤに説明を与えてくれた。小学生の頃からずっと引っかかっていた文化差や言語差には、すでに理論とデータによる分析が積み重ねられていた。そして同時に、まだわかっていないことも山ほどあるのだと知った。

なんて楽しいのだろう。
その営みのほんの一端にでも自分が関われるかもしれないと思うと、ロマンを感じずにはいられなかった。

しかし、学業に関しては自分が筋金入りの不真面目であったことに変わりはない。そもそも最初から院進を考えていたわけでもない。そんなやつが、ちょっと修士課程で勉強して楽しくなっちゃったからって、急に博士に進学するなんて調子が良すぎるのではないか。
どうしたものかと悩んでいたところ、ゼミの先輩が焼肉を奢ってくれて、博士に進むことを猛烈に推してくれた。

その後押しもあって、私は博士課程への進学を決めた。
(決して肉に釣られたわけではない。)

この頃、子どもは絶賛イヤイヤ期。
特に、保育園に送るためにママチャリに乗せるのが至難の業で、保育園までたった10分の道のりに40分かかることもざらだった。
「早く乗ってっっっ!!!」と、つい語調が強くなってしまい、通行人に二度見されたことも一度や二度ではない。

さて、子ども連れの博士課程生活。
どうなることやら。

 

〜次回に続く〜