先日、新しいボードゲームが我が家に届きました。
箱を開けた瞬間から私はワクワク。
「早く見せたい!」という気持ちを抑えきれず、
👩「ねーねー、これ見てみて!(わくわく)」
と6歳の息子に声をかけたところ、
👦「(テレビを見ながら)あとで見せて〜」
……あ、はい。
ベイブレードのアニメ、強い。
すると息子、追い打ちをかけるように、
👦「また後で教えて!後で見せてね」
👩「はい、わかりました……」
この瞬間、
ボードゲームよりもベイブレードが優先された悲しみが、胸をよぎりました。
が!!
それよりも!!
「あ、息子がネガティブ・ポライトネス身につけてるっっ🤩🤩🤩🤩」
という興奮が、悲しみを一瞬で上回ったのです。
やんわり断る力は、実はかなり高度です。
「今は無理」と言うだけなら簡単です。
でも息子は、私の気持ちを気にかけ、「あとで教えてね」と完全拒否はしない、というかなり高度な断り方をしていました。
このように、相手の気持ちや立場をなるべく傷つけないようにしながら断ることを、言語学では ネガティブ・ポライトネス(negative politeness) と呼びます。
人は会話をするとき、実はいつも2つの気持ちのあいだで揺れています(Brown & Levinson, 1987)。
ひとつ目は、消極的な面目(negative face)。
別名「独立の面目」とも呼ばれ、1人でいたい、自分で決めたい、今は干渉されたくないといった、「放っておいてほしい」という気持ちです。
もうひとつは、積極的な面目(positive face)。こちらは「連帯の面目」とも言われ、褒められたい、仲良くしたい、嫌われたくない、といった、「つながっていたい」という気持ちです。
今回の場面でいうと、
「今はテレビを見たい」→ ① 独立の面目
「ママを無下にしたくない」→ ② 連帯の面目
この2つは、どちらか一方だけがあるわけではなく、常にセットです。
そして、その間をうまく調整するところに、「丁寧さ」が生まれます。
「丁寧さ」というと、敬語を使うかどうか、言葉遣いがきれいかどうか、と思われがちですが、本質はそこではありません。
本当の意味での丁寧さとは、自分の「今はこうしたい」という気持ちを大切にしつつ、同時に相手の「大切にされたい」という気持ちも壊さないこと(逆もしかり)。
このバランスをどう取るか、という問題です。
「馴れ馴れしい」と「親しい」の境界線が難しいのも、この2つの願望が常にせめぎ合っているからです。
さらに言語学では、そもそも「話すこと」自体が、相手の面目を脅かす可能性をもつと考えます。これをFace Threatening Act(FTA:面目を脅かす行為) と呼びます。
たとえば、気の進まない約束を断る、命令する、忠告する、といった行為はすべて、相手の「仲良くなりたい」という気持ちを少なからず脅かしてしまいます。
だからこそ私たちは、「あとでね」「ごめんね」「ちょっと今は…」と、言葉の前後にクッションを置くのです。
この「自分と相手の気持ちのせめぎ合い」を理解し、うまくバランスを取れるようになって、はじめて、
「また後で見せてね」
という一言が出てくるようになります。
次に「あとでね」と言われたときは、悲しむ前にまず、
「お、FTA回避してきたな」
と心の中で拍手を送りたいと思います。
Brown, P. (1987). Politeness: Some universals in language usage (Vol. 4). Cambridge university press.