年末になると、なぜか我が家は毎年あらゆる菌とウイルスにやられます。
今年も例外ではなく、
11月下旬に私が肺炎 →
2週間後に息子が原因不明の発熱 →
さらに2週間後に夫がインフルエンザ。
急な予定変更や看病が続く中、学期末に向けて仕事と授業準備は加速。
正直、ママはもう限界でした。
それでもなんとか今年も綱渡り生活を完走。気分は「イカゲーム(育児編)」です。
来年もなんとか生き残りたい所存です。
そんな師走。
ママ業・妻業・家族専属秘書・家族専属看護師・教師を同時進行していると、当然のようにミスも起きます。
…という、長い前置きはすべて、
先日、息子の上履きを幼稚園に持っていくのを忘れた言い訳です(笑)。
寝坊 → ドタバタで朝支度 → 幼稚園へ。
到着して、息子のカバンから上履きを出そうとした瞬間、
……ない。
「ごめーん。今日は職員室で借りて……」
そう言うと、息子が一言。
「しっかりしなさ〜い!僕は6歳でママは34歳なのに〜!ママの方が年上なのに〜!しっかりしなさ〜い!」
(ちなみに「34歳」は会話分析的に言えば、【↑さんっ(.)じゅ::(.)↑よんっさいっ】というスーパー強調付きでした)
……怒られました。
いや、それあなたの上履きだからね?
年長なんだし、自分で管理してもいいんじゃない?
という話はさておき。
ここで私の脳内に、例の言語学アラームが「ピコーン」と鳴ります。
というわけで、年内最後の投稿は、私の研究ど真ん中の話で締めたいと思います。
私たちはつい、「年上なんだからしっかりして」と考えがちですが、年齢をどれだけ重視するかは文化によって大きく異なります。
年功序列を強く意識する文化もあれば、そうでない文化もある。その違いは、ことばの使い方にも表れます(メイヤー, 2015)。
息子の発言をもう一度見てみましょう。
「僕は6歳で、ママは34歳なのに!」
ここには、こんな前提があるはずです。
ママ=年上=expert(熟達者)
自分=6歳=novice(初心者)
本来なら、息子は「教えてもらう」立場。
ところが今回は、expert のはずのママが、novice の自分でも気づくミスをしている。
その結果、一時的に
ママ=novice
息子=expert
という関係の逆転が起きています。
「しっかりしなさい」は、本来、目上が目下に使う表現です。
子どもが親に使うのは普通なら不自然。でも今回は、「expert・novice が一時的に逆転した」
という状況がある。だから息子は、大人の言い方をあえて借りて、
自分が「上の立場」に立っている感じを演出しているのです。
日本語話者はこれを、「子どもが大人の言い方を“なりきり”で使って、上下関係を一時的にひっくり返すメタ的な冗談」として理解します。
だからこそ、「ぷぷっ、生意気(笑)」で済むのです。
ところが、これをそのまま英語にすると、印象が一変します。
Get it together! I’m only six, and you’re already thirty-four! You’re the older one, mom!
……ただの無礼。
冗談感や可愛げはほぼ消え、「生意気な子ども」になります。
それはなぜか。
日本語の子どもはかなり早い段階で、「先生っぽい言い方」「親っぽい言い方」を“遊び”として使ってよいと学びます。
発話は本音でなくてもいい。役割を演じてもいい。その前提が共有されています。
だから「しっかりしなさ〜い」は、権威の主張ではなくパロディとして受け取られます。
一方、英語圏では、「ことばには責任が伴う」という価値観が早くから教えられます。
そのため、子どもが大人の口調を使うと、冗談ではなく本気の叱責として解釈されやすい。
さらに英語圏では、年齢は尊敬や権威の根拠になりにくく、特に女性の年齢は半ばタブーです。
日本語では年齢が家庭内の共有情報でも、英語では「個人属性を持ち出して評価している」ように聞こえてしまう。
加えて、日本語の親子関係が「役割関係」であるのに対し、英語では親子も基本的には「対等な個人」。だから対等な立場からの批評は、一気に無礼になるのです。
そのため、日本語のニュアンスを英語で出したいなら、
Hey, you’re supposed to be the grown-up!
のように、年齢や説教感を弱め、「なりきり感」を強める必要があります。
同じ発言でも、日本語では「可愛い生意気」、英語では「失礼な批判」になる。
違いは語彙でも文法でもありません。
子どもに「ことばをどう使ってよいか」を社会がどう教えているか、つまり言語社会化の違いです。
上履きを忘れた朝の一言が、ここまで連れていってくれる。
やはり育児は、最高のフィールドワークだなと思います。
(借りた上履きは、年明けに洗って返します……)