尾﨑(和賀)萌子のホームページ

言語学な育児日記#3 まあ作るは作る、遊ぶは遊ぶ

このゴールデンウィーク、我が家に突如として一大旋風を巻き起こしたのは……

ベイブレード。

あの、高速で回転するコマのおもちゃです。

きっかけは、幼稚園のお友達が持っていたのを見て、「自分もやりたい!」と言い出したこと。「どうせすぐ飽きるだろうな……」と思いながらも、子どもの日だし、ということで買ってみたところ、まさかの大ヒット。息子だけでなく、私も夫も、すっかりハマってしまいました。

これまでレゴ一色だった息子も、わずか一日で「ブレーダー」へと華麗に転身。ブレーダー歴の長い選手と同じ構えで練習に励むなど、すっかりその気です。

しかし、気になるのはその横に積まれたレゴの山。

ずっと夢中だったレゴ。次の誕生日にはレゴランドに行く予定で、すでにキャンセル不可のチケットも購入済み。まさか、このまま卒業……?と不安になり、恐る恐る「ねぇ、レゴはもうやらないの?」と聞いてみたところ、

息子は仁王立ちで両手にベイブレードを構えながら一言。

 

「まぁ、作るは作るよ。遊ぶは遊ぶ。」

 

おお、トートロジーだ!と職業病的に反応してしまう私。息子が実際にこの構文を使ったのを聞いたのは、これが初めてかもしれません。

 

そこでふと気になったのは、「子どもはいつからトートロジーを使えるようになるのか?」ということ。

「作るは作る」「遊ぶは遊ぶ」というトートロジーは、日本語特有の言い回し。主語や目的語が省略されていて、文脈によって意味が補われるこの表現を、息子は「レゴもやるし、ベイブレードでも遊ぶよ。どっちも楽しむ」という意味で使っていました。かなり高度な語用論的理解に基づいた発話だといえます。

実際、トートロジーは認知的負荷が高いとされており、先行研究では9〜11歳の子どもでも、その意味を正確に理解できないケースが多いことが報告されています(Osherson & Markman, 1974;山本, 2019)。

とはいえ、息子はごく自然に、そして的確にトートロジーを使っていたのです。たまたまかもしれないし、トートロジーの天才かもしれません(?)。とはいえ、ごく平均的な5歳児であることを考えると、研究デザイン次第では、従来考えられていたよりも早い段階で子どもがトートロジーを理解し、使える可能性が見えてくるように思います。

これまでの研究の多くは、トートロジーの文を聞かせて意味を選択肢から選ばせる実験的手法が主流でした。しかし、小学校低学年以下の子どもにとって、そのような形式での理解度測定は難しいかもしれません。むしろ、自然発話やコーパスデータを活用すれば、子どもが日常の中でどのようにトートロジーを用いているか、より実態に近い知見が得られるかもしれません。

言語習得研究は、戦後から本格化したとはいえ、まだまだ発展途上の領域。思いもよらぬ発見や新しい視点が、日常のちょっとした会話の中に潜んでいることがあります。だからこそ、こうした何気ない子どものひと言が、研究者にとっては大きなヒントになったりするのです。とてもワクワクします!

Osherson, D. N., & Markman, E. (1974). Language and the ability to evaluate contradictions and tautologies. Cognition, 3(3), 213-226.

山本尚子(2019). An Experimental Analysis of Children’s Misunderstanding of Tautology. 奈良大学紀要, (47), 109-118.