尾﨑(和賀)萌子のホームページ

言語学な育児日記 #1 過去・未来・循環を理解できるようになるのはいつ?

これまでブログをまったく更新してこなかったのですが、そろそろ何か書いてみようと思い、ついに筆を取りました。

はじめまして、尾崎萌子です。
今年3月に博士号を取得し、4月からは大学の常勤教員として働き始めました。ようやく研究者の仲間入りです(まだまだ駆け出しではありますが…)。

そして、修士課程を始めた年に生まれた息子は、あっという間に5歳になりました。

5歳といえば、0歳から始まった怒涛の言語習得がようやく落ち着き、言語能力がある程度完成し始める時期。これまでにも言語学的に面白い成長がたくさんあったのに、書き留めておかなかったのが悔やまれます。今ごろ見返せば、きっといい研究ネタにもなっていたかもしれません…。

でも、「今からでも遅くない!」と信じて、これから「言語学な育児日記」を綴ってみることにしました。息子との何気ない日常会話を、言語学の視点から覗いてみようという試みです。

記念すべき第1回は、一昨日のお風呂前の出来事から。

(息子の仮名は「カピくん」とします。最近カビゴンにハマっているので、そこからの安直な命名です笑)

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カピくん:「ねぇ、なんでAくん(幼稚園の同級生の弟、もうすぐ2歳)はちっちゃいのに、お誕生日カピくんより前なの?」

私:「それはね、確かにAくんはカピくんより早い月に生まれたけど、生まれた年はAくんの方が後だからだよ」

カピくん:「……どういう意味?」

私:「だから、7月にカピくん誕生!そこから 8、9、10……12、1、2、3……で、次の年の2月にAくん誕生!って感じ」

カピくん:「ママ説明ヘタ。ぜーーーんぜんわかんない。カピくんはこどもなんだから、もっとわかりやすく説明しないと!」

私:「……。」

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その後もいろいろ説明を試みたのですが、どうしても伝わらない……。
考えてみると、「時間は進みながら循環している」という概念って、大人にとっては当たり前でも、子どもにとってはとても難しいことなんですよね。「なんで12月の次が13月じゃなくて、1月に戻るの?」と聞かれたら、大人でもうまく答えられないかもしれません。

実際、子どもが「過去」と「未来」の区別をしっかり理解しはじめるのは、だいたい5歳ごろだと言われています(Hudson & Mayhew, 2011)。
それまでは「いま・ここ」を基準にした時間の感覚しか持てないので、たとえば先週クリスマスだったのに、「来週もまたクリスマス!」と思ってしまうこともあるのです(Friedman, 2000)。

さらに、季節や月の「循環性」を理解するには、8~10歳くらいまでかかるとされています(Friedman, 1978)。

つまり、もうすぐ6歳になるカピくんは、「年齢の順序」と「誕生日の時期」のズレに素朴な疑問を持てる時期に入ったけれど、「時の循環性」まではまだ理解しきれない。その結果、ママの説明は彼にとって「わかりにくいもの」だったのでしょう。

いやはや、実に発達に見合ったgood question。
でも母は、全然good answerを返せませんでした……^^;


Friedman, W. J. (1978). Development of time concepts in children. In Advances in child development and behavior (Vol. 12, pp. 267-298). JAI.

Friedman, W. J. (2000). The development of children’s knowledge of the times of future events. Child development71(4), 913-932.

Hudson, J. A., & Mayhew, E. M. (2011). Children’s temporal judgments for autobiographical past and future events. Cognitive Development26(4), 331-342.