最近、6歳の息子がハマっている表現がある。
「えー?!えっ、えっ、えっ、えっ、えーーーーっっ、えー?!?!?」
これを本当に心の底から、どうでもいいことに対して、あたかも地球がひっくり返ったかのように驚きながら言うのである。
しかも大抵は、私が運転して幼稚園に送っている朝の車中。突然大声をあげられると、どうしてもこちらもびっくりしてしまい、一瞬注意が逸れるので、なかなか厄介である。
そこでふと思った。
彼はしょうもないことには全力で驚くのに、パーティーを開いてあげたり、急にお菓子を買ってあげたりしても「やったー!」とは言うものの、「えー!」とは言わない。驚きの「えー!」を使うようになったのは、ほんの最近のことだ。
もしかしたら「驚き」という感情の本質をまだ理解していないのかもしれない。そう思い、試しに聞いてみた。
母「ねえ、驚いた顔してみて」
息子 (無表情)
母「驚いた顔ってどんな顔?」
息子 (鼻の下を伸ばす)
母「え、眉毛あげたり、口開けたり、目を大きくしたりするんじゃない?」
息子「え〜そんなことしないよ〜笑笑」
(眉毛を上げ下げしようとして失敗、ふざけ始める)
母「じゃあ、どんな時に驚く?」
息子「バナナな時、アハハハ」
母「じゃあ、いきなりプレゼントもらったら?」
息子「バナナーバナナーバーナーナ あははは」
…息子がふざけすぎていて、「驚き」をどこまで理解しているのか確認できない。
いずれにせよ、これまでのやりとりから息子は「驚き」をうまく言語化できない、もしくは驚いている自分をメタ認知できていなさそう。
乳児は、母親が驚いていることを理解できる。これは生存本能の一つで、「親が驚く=危険=近づかないほうがいい」と推測できるからだ。実際の研究でも、親が新しいものに驚いたり後ずさりしたりすると、子どもも近づかなくなる傾向が確認されている (Klinnert et al., 1983)。
ただし、「驚き」という感情を自分自身で理解するには、もっと複雑なプロセスが必要になる。
・まず「何かが起こるだろう」という予測を立てる
・その予測が裏切られる
・その不測の事態に気持ちが追いつかず「驚いている」と自覚する
この一連の流れを瞬時に処理できてこそ、「驚き」という感情を理解できる (Bartsch & Estes, 1997)。
さらに他人の「驚き」を理解するには、その人がこうした思考プロセスを辿っていることを表情から読み取らなければならない。しかし「恐怖」と「驚き」の表情を区別するのは子どもにとって難しく、10歳でも間違えることがある (Gosselin & Simard, 1999)。
「驚く」ということは、シンプルなようで、意外にも(?)複雑なのである。
息子はもう6歳。口も達者になり、すっかり一人前のように思えてしまうけれど、「驚き」という感情もまだまだ発達途中なのだ。
そう思えば、朝の「えーーー!!!」攻撃も少しは耐えられそうである。
参考文献
Gosselin, P., & Simard, J. (1999). Children’s knowledge of facial expressions of emotions: Distinguishing fear and surprise. *The Journal of Genetic Psychology*, 160(2), 181-193.
Bartsch, K., & Estes, D. (1997). Children’s and adults’ everyday talk about surprise. *British Journal of Developmental Psychology*, 15(4), 461-475.
Klinnert, M. D., Campos, J. J., Sorce, J. F., Emde, R. N., & Svejda, M. (1983). Emotions as behavior regulators: Social referencing in infancy. In *Emotions in Early Development* (pp. 57-86). Academic Press.