先日、車の中での息子との会話。
(トイレットペーパーの芯を誇らしげにミラー越しで見せながら)
「ねぇママ、これ好き?」
「うん、好きだよ(信号待ちでテキトーに返事)」
「本当に好き? 本当に本当にどう?」
……気づけば私は、「トイレットペーパーの芯が好きな人」になっていた。
この「本当に好き?」の連発。
一見かわいい質問に見えるけれど、これ、なかなか鋭い。
彼はどうやら、私の「本音」を確かめようとしていたらしい。
人はときどき嘘をつく。
でも、それは必ずしも悪意からじゃない。
「相手を傷つけないように」とか「場をやわらげるために」とか、そういう「やさしい嘘」、つまり white lie(白い嘘) だ。
そこで気になったのが、「子どもはどのようにして white lie を理解し、使い始めるのか」という点だ。
子どもは3歳くらいから嘘をつくことができるようになる。
ただしその頃の嘘は「叱られたくない」とか「チョコ食べたのバレたくない」などの自己防衛系。
まだ“相手を思いやる”タイプの嘘ではない。
ところが5〜7歳になると、状況が変わってくる。
「相手の気持ちを守るための嘘」が理解できるようになる(Warneken & Orlins, 2015; Talwar et al., 2007)。
たとえば、「ママが作ったちょっと焦げたパンケーキ」に「おいしいね」と言えるようになったら、立派な成長の証。
……うん、涙が出るほどおいしい(いろんな意味で)。
日本ではさらに、「本音と建前」や「空気を読む」といった文化の影響もあり、white lie 的な言葉づかいが早く身につくといわれている。
たとえば、内心「かわいいと思ってないけど“かわいい〜!”」とか、
「いらないけど“ありがとう〜うれしい〜!”」とか。(Ip et al., 2021)
息子はいま6歳。
トイレットペーパーの芯を手に、私の本心を試してきた。
「ママはほんとはどう思ってるの?」
その小さな質問の中に、他人の心を読み取ろうとする芽が見えて、思わずハッとした。
こうした瞬間に立ち会えることは、親としても研究者としても、とても感慨深い。
参考文献
Warneken, F., & Orlins, E. (2015). Children tell white lies to make others feel better. British Journal of Developmental Psychology, 33(3), 259–270.
Talwar, V., Murphy, S. M., & Lee, K. (2007). White lie-telling in children for politeness purposes. International Journal of Behavioral Development, 31(1), 1–11.
Ip, K. I., Miller, A. L., Karasawa, M., Hirabayashi, H., et al. (2021). Emotion expression and regulation in three cultures: Chinese, Japanese, and American preschoolers’ reactions to disappointment. Journal of Experimental Child Psychology, 201, 104972.