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言語学な育児日記 #34 胎児はどこまで言葉を聞いているのか?

これまでこの育児日記は息子(7歳)について書いてきたが、実は今年の年末か年明け頃には第二子が生まれる予定。
新たな 研究対象    家族 が増えることにより、息子の時には書けなかった新生児期からの言語発達について書けると思うと、嬉しい限りである。

さて、今日はそんなわけで胎児のお話。

言語社会化(language socialization)という研究領域では、社会化はいつから始まるのか、という問いに対して、
「ヒトが社会的接触を持った瞬間から死ぬまで」
と説明されることがある。

「生まれてから死ぬまで」
の方がわかりやすいのに、なぜあえて「社会的接触」という表現を使うのか。
それは、ヒトは生まれる前から、すでに周囲の人々の声や音に接しているからである。

もちろん、胎児が大人と会話をしているわけではない。しかし、言語の習得につながる経験は、実は生まれる前から始まっている。

胎児の聴覚は妊娠中期から後期にかけて徐々に発達する。
研究によると、妊娠19週頃から特定の音に反応する胎児が現れ、25〜27週頃には比較的低い周波数の音への反応がかなり明確になってくる。そして妊娠後期にかけて、より高い周波数の音にも反応できるようになる。

ただし、胎児が聞いている音は、我々が普段聞いている音とはかなり異なる。何しろ、羊水や子宮、母親の腹壁などに囲まれた状態で音を聞いているのである。
いわば、お風呂に潜った状態で、脱衣所で会話している家族の話を聞いているようなものだ。特に、音声の高い周波数成分は弱まりやすく、比較的低い周波数の音が胎児に届きやすい。

となると、胎児はどれくらいその言葉を聞き分けられているのか、ということになる。

DeCasper et al. (1994) は、妊娠33〜37週の妊婦に、毎日同じ短い童謡を声に出して読んでもらう実験を行った。
そして、胎児にその聞き慣れた童謡と、別の童謡の録音を聞かせ、心拍数の変化を調べた。すると、繰り返し聞いていた童謡に対しては胎児の心拍数が低下したのに対し、別の童謡に対しては同様の反応が見られなかった。
これは、胎児が繰り返し聞いた音声を記憶し、それ以外の音声と区別できる可能性を示している。

さらに驚くべきことに、生後わずか2日の赤ちゃんでも、母親が話していた言語と、別の言語を区別し、前者を好む傾向があるという研究もある(Moon et al., 1993)。

つまり、言語の習得は、赤ちゃんが初めて「ママ」と発するずっと前から、すでに始まっているのである。

さて、これから生まれてくる第二子が、どのように言葉を身につけ、兄とどのようにやりとりするようになるのか。
母親としても、言語学者としても、今から楽しみで仕方がない。
ただし、新生児期からの言語発達を観察するという壮大な研究計画が、7年ぶりの産後の寝不足により頓挫しないことを祈るばかりである。

DeCasper, A. J., et al. (1994). Fetal reactions to recurrent maternal speech. Infant Behavior and Development, 17, 159–164.
Moon, C., Cooper, R. P., & Fifer, W. P. (1993). Two-day-olds prefer their native language. Infant Behavior and Development, 16, 495–500.