今朝、起きてすぐに息子からびっくりする質問が飛んできた。
👩「おはよー」
👦「おはよー。ねーねー、ことばってどうやって始まったのかな?」
👩「?!?!?!」
6歳が、言語の起源に興味を持つとは。
誓ってやらせではない。
これは…!
よいブログのネタになる…!
そう思った私は、急いで携帯のメモ画面を開きながら、こんな話をした。
👩「んー、もともと人は四足歩行だったんだよ。こんな感じで」
朝5時50分、リビングで四足歩行している母親は、日本全国で私だけだったかもしれない。
👦「知ってるよ」
👩「それで、そのあと立つようになったら、あれ、手が使えるじゃん!人の顔も見えるじゃん!ってなったわけ」
👦「うん」
👩「それで、手を使って火を起こせる!あっちとかこっちとか、指で指せる!それなら、しゃべったらもっと効率いいんじゃない?!しゃべろう!……ってなったんじゃない?」
👦「えー、ちがうと思うよ」
👩「そうなの?じゃあ、どんな感じだと思う?」
👦「まずさー、猿から人間になるでしょ。たぶん、それはそう!でもその後はさ、手を使うとか、手を振るとかじゃなくて、適当になんかちょっと声が出て、それでやっほーってなったんじゃない?」
👩「な、なるほど…。じゃあ、最初は適当だと思う?」
👦「そりゃそうでしょー」
というわけである。
実に面白い。
私自身、言語の起源については、言語学の教科書に軽く書いてある程度の知識しかない。なので、もしかすると、そもそも私の説明が間違っていたかもしれない。あるいは、あまりにも極端に端折りすぎていたかもしれない。
そもそもヒトの系統は、約930万〜650万年前に、現在の類人猿につながる系統から枝分かれしたと考えられている(Almécija et al., 2021)。その後、二足歩行への移行を含め、身体にはさまざまな変化が起きた。
言語との関わりでよく取り上げられるのが、発声器官の変化である。たとえば、喉頭の位置が下がったことで、声道、つまり口から喉頭までの通り道が長くなり、より多様な音を発しやすくなったとされる(正高, 1993)。もちろん、喉の形が変わったからといって、すぐに言語が生まれたわけではない。それでも、人間が複雑な音声を使えるようになるうえで、身体の変化が重要な条件の一つだったことはたしかである。
では、人間はいつから「ことば」を話すようになったのか。
これについては、実はまだわからないことが多い。
約10万年前には、すでに何らかの形で言語的なコミュニケーションが行われていたのではないか、と考えられることもある。しかし、「最初のことば」がいつ、どのように生まれたのかを直接確かめることはできない。
なにしろ、ことばは化石に残らない。
骨や道具は残っても、「やっほー」という声は地層から出てこないのである。
そのため、言語の起源をめぐる議論は、どうしても想像に頼る部分が大きくなる。あまりに検証が難しいため、1866年には、パリ言語学会が「言語の起源に関する論文は受理しない」と定めた。堀田隆一先生のブログでも、このあたりの経緯がとてもわかりやすく紹介されている。
もちろん現在では、FOXP2遺伝子のように、言語能力との関連が指摘される遺伝子の研究なども進んでいる。それでもなお、「最初の言語が具体的にどう誕生したのか」を直接証明することは、非常に難しい。
こうした背景を少しでも知っていると、どうしても大人は、「ことばには何か合理的な必要性があったはずだ」と考えたくなる。
狩りのため。危険を知らせるため。道具の使い方を教えるため。「あっち」「こっち」と指示するため。
つまり、何かしら「しゃべらないといけない理由」があって、人間は合理的な選択としてことばを使い始めたのではないか、と考えたくなるのである。
しかし、息子の考えはもっとシンプルだった。
最初は、特に深い理由などなかった。たまたま声が出た。目の前に、たまたま誰かがいた。それで、なんとなく声をかけてみた。「やっほー」と。
なるほど。
そうかもしれない。
もしかすると、最初のことばは、生存のための指示や命令ではなかったのかもしれない。
「あっちに獲物がいるぞ」でも、「火を持ってこい」でも、「危ない、逃げろ」でもなく、
ただ、目の前の誰かに向かって声を出したかった。
そんな、きわめて素朴なコミュニケーションの衝動が、ことばの始まりにあったのかもしれない。
言語の起源は、いまも謎に包まれている。
誰にも正解はわからない。
けれど、人類の第一声が「やっほー」だったと想像すると、なんだか少し、世界がかわいく見えてくる。
参考文献
Almécija, S., Hammond, A. S., Thompson, N. E., Pugh, K. D., Moyà-Solà, S., & Alba, D. M. (2021). Fossil apes and human evolution. Science, 372(6542), eabb4363.
正高信男(1993)『0歳児がことばを獲得するとき:行動学からのアプローチ』中央公論新社。
堀田隆一先生のブログ:
https://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2009-12-14-1.html