尾﨑(和賀)萌子のホームページ

Moeko Waga Ozaki

I study conversations between Japanese and American parents and children through the lenses of sociolinguistics, English linguistics, contrastive linguistics, and language socialization.
My research focuses on why children’s speech and values change based on their environment and culture, and how adult-child communication varies across cultures.

I’m also navigating the challenges of raising my own preschooler!

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このゴールデンウィーク、我が家に突如として一大旋風を巻き起こしたのは…… ベイブレード。 あの、高速で回転するコマのおもちゃです。 きっかけは、幼稚園のお友達が持っていたのを見て、「自分もやりたい!」と言い出したこと。「どうせすぐ飽きるだろうな……」と思いながらも、子どもの日だし、ということで買ってみたところ、まさかの大ヒット。息子だけでなく、私も夫も、すっかりハマってしまいました。 これまでレゴ一色だった息子も、わずか一日で「ブレーダー」へと華麗に転身。ブレーダー歴の長い選手と同じ構えで練習に励むなど、すっかりその気です。 しかし、気になるのはその横に積まれたレゴの山。 ずっと夢中だったレゴ。次の誕生日にはレゴランドに行く予定で、すでにキャンセル不可のチケットも購入済み。まさか、このまま卒業……?と不安になり、恐る恐る「ねぇ、レゴはもうやらないの?」と聞いてみたところ、 息子は仁王立ちで両手にベイブレードを構えながら一言。 「まぁ、作るは作るよ。遊ぶは遊ぶ。」 おお、トートロジーだ!と職業病的に反応してしまう私。息子が実際にこの構文を使ったのを聞いたのは、これが初めてかもしれません。 そこでふと気になったのは、「子どもはいつからトートロジーを使えるようになるのか?」ということ。 「作るは作る」「遊ぶは遊ぶ」というトートロジーは、日本語特有の言い回し。主語や目的語が省略されていて、文脈によって意味が補われるこの表現を、息子は「レゴもやるし、ベイブレードでも遊ぶよ。どっちも楽しむ」という意味で使っていました。かなり高度な語用論的理解に基づいた発話だといえます。 実際、トートロジーは認知的負荷が高いとされており、先行研究では9〜11歳の子どもでも、その意味を正確に理解できないケースが多いことが報告されています(Osherson & Markman, 1974;山本, 2019)。 とはいえ、息子はごく自然に、そして的確にトートロジーを使っていたのです。たまたまかもしれないし、トートロジーの天才かもしれません(?)。とはいえ、ごく平均的な5歳児であることを考えると、研究デザイン次第では、従来考えられていたよりも早い段階で子どもがトートロジーを理解し、使える可能性が見えてくるように思います。 これまでの研究の多くは、トートロジーの文を聞かせて意味を選択肢から選ばせる実験的手法が主流でした。しかし、小学校低学年以下の子どもにとって、そのような形式での理解度測定は難しいかもしれません。むしろ、自然発話やコーパスデータを活用すれば、子どもが日常の中でどのようにトートロジーを用いているか、より実態に近い知見が得られるかもしれません。 言語習得研究は、戦後から本格化したとはいえ、まだまだ発展途上の領域。思いもよらぬ発見や新しい視点が、日常のちょっとした会話の中に潜んでいることがあります。だからこそ、こうした何気ない子どものひと言が、研究者にとっては大きなヒントになったりするのです。とてもワクワクします! Osherson, D. N., & Markman, E. (1974). Language and the ability to evaluate contradictions and tautologies. Cognition, 3(3), 213-226. 山本尚子(2019). An Experimental ...
寝る前、ふと息子が言った一言。 「ろくろっくびはさ、顔が長いんだよね〜♪」 か、顔が長い……? 顔が長いろくろ首を想像して、思わず笑いそうになる。 おそらく彼は「顔が長く伸びる」もしくは「首が長い」という意味で言ったのだろうけれど、顔が長いろくろ首……一周回ってホラー感は消え、もはやお笑いの世界である。 でもこれ、よく考えるととても興味深い。 おそらく息子は、ろくろ首の特徴を「首」ではなく、「高く伸びた顔」と認識した結果、こう表現したのだろう。 このように、何かを最も目立つ特徴(=参照点)で表すことをメトニミー(metonymy)と言う。 たとえば、「ろくろ首」を「首長」と表すのもその一例。 今回の息子の発言は、参照点の誤認識によって起こったメトニミーの「ズレ」と言えるかもしれない。 では、このメトニミーの感覚はいつ身につくのか。 意外にも早く、3歳頃には絵本を見ながら、適切な参照点を選び、聞き手に伝えることができる子が多い。 たとえば、帽子をかぶった人を「帽子」と呼ぶことができる。 しかし面白いことに、メトニミーは年齢とともに順調に伸びていくわけではない。 4-5歳で一度正答率が下がり、その後また上がるという、U字型の発達パターンを描くことが報告されている(Falkum, Recasens, & Clark, 2017)。 4-5歳になると、メタ言語能力(言語を俯瞰的に捉え、コントロールする力)が発達してくるため、 「考えすぎる」ことでかえって間違えるのではないかと推測されているが、真相はまだ謎。 顔が長くなるろくろ首を思い浮かべた息子の脳内、 そのプロセス、もし覗けるならぜひ覗いてみたい! Falkum, I. L., Recasens, M., & Clark, E. V. (2017). “The moustache sits down first”: On the ...
これまでブログをまったく更新してこなかったのですが、そろそろ何か書いてみようと思い、ついに筆を取りました。 はじめまして、尾崎萌子です。今年3月に博士号を取得し、4月からは大学の常勤教員として働き始めました。ようやく研究者の仲間入りです(まだまだ駆け出しではありますが...)。 そして、修士課程を始めた年に生まれた息子は、あっという間に5歳になりました。 5歳といえば、0歳から始まった怒涛の言語習得がようやく落ち着き、言語能力がある程度完成し始める時期。これまでにも言語学的に面白い成長がたくさんあったのに、書き留めておかなかったのが悔やまれます。今ごろ見返せば、きっといい研究ネタにもなっていたかもしれません...。 でも、「今からでも遅くない!」と信じて、これから「言語学な育児日記」を綴ってみることにしました。息子との何気ない日常会話を、言語学の視点から覗いてみようという試みです。 記念すべき第1回は、一昨日のお風呂前の出来事から。 (息子の仮名は「カピくん」とします。最近カビゴンにハマっているので、そこからの安直な命名です笑) ========== カピくん:「ねぇ、なんでAくん(幼稚園の同級生の弟、もうすぐ2歳)はちっちゃいのに、お誕生日カピくんより前なの?」 私:「それはね、確かにAくんはカピくんより早い月に生まれたけど、生まれた年はAくんの方が後だからだよ」 カピくん:「……どういう意味?」 私:「だから、7月にカピくん誕生!そこから 8、9、10……12、1、2、3……で、次の年の2月にAくん誕生!って感じ」 カピくん:「ママ説明ヘタ。ぜーーーんぜんわかんない。カピくんはこどもなんだから、もっとわかりやすく説明しないと!」 私:「……。」 ========== その後もいろいろ説明を試みたのですが、どうしても伝わらない……。考えてみると、「時間は進みながら循環している」という概念って、大人にとっては当たり前でも、子どもにとってはとても難しいことなんですよね。「なんで12月の次が13月じゃなくて、1月に戻るの?」と聞かれたら、大人でもうまく答えられないかもしれません。 実際、子どもが「過去」と「未来」の区別をしっかり理解しはじめるのは、だいたい5歳ごろだと言われています(Hudson & Mayhew, 2011)。それまでは「いま・ここ」を基準にした時間の感覚しか持てないので、たとえば先週クリスマスだったのに、「来週もまたクリスマス!」と思ってしまうこともあるのです(Friedman, 2000)。 さらに、季節や月の「循環性」を理解するには、8~10歳くらいまでかかるとされています(Friedman, 1978)。 つまり、もうすぐ6歳になるカピくんは、「年齢の順序」と「誕生日の時期」のズレに素朴な疑問を持てる時期に入ったけれど、「時の循環性」まではまだ理解しきれない。その結果、ママの説明は彼にとって「わかりにくいもの」だったのでしょう。 いやはや、実に発達に見合ったgood question。でも母は、全然good answerを返せませんでした……^^; Friedman, W. J. (1978). Development of time concepts in children. In Advances in ...